「ことわざを、それがことわざになる前にこの世で初めて発言した人」は、うち9割が「お前それどういう意味?」って顔されたと思う。
国王 「ええい、道を塞ぐでない!」
神父 「ぐわあぁ、こんな事をしてただで済むと――」
配下 「おやめください、国王! これ以上その手を血で汚すおつもりですか」
国王 「ふははっ、止めても無駄だッ! 私の心は既に、毒を食らわば皿までと
決めているのだ!」
配下 「…………え?」
国王 「え?」
配下 「いや、あの。え? 皿? え、毒?」
国王 「……や、例え話で」
配下 「ん、んん? 解毒? 解毒必要あるんじゃないでしょうか? 皿、え?」
国王 「そうじゃないそうじゃない、あのな、こう、毒を体に入れちゃったらな」
配下 「死にます」
国王 「そうじゃなくて、毒? 私が、毒? 悪事に手を染めました的な?」
配下 「比喩?」
国王 「そうそうそうそう」
配下 「解毒?」
国王 「要らないの、もう、悪事やっちゃってるんだから、国王なのに」
配下 「国王なのに、ねえ」
国王 「ねえ。だからもう、乗りかかった船って言うか」
配下 「乗れよ」
国王 「いやそうじゃな――違う、そうだよ。いっそ乗ったほうがいいでしょ」
神父 「うんうん」
国王 「そこまで来たら。だから毒食べちゃったから、皿もね、舐めて」
配下 「わからん」
国王 「解らない?」
配下 「いや、船はね。解ります。乗りかかっちゃったら、乗りますよ」
国王 「だよね?」
配下 「でも毒は……ねぇ?」
神父 「ねぇ?」
国王 「だから例えだってば」
配下 「例えるにしても、えぇ~、毒だし、えぇ~、引くわぁ」
国王 「はっはっは、今日の狩りは調子が良い」
配下 「見事でございます、国王」
国王 「どうだ、お前も一度射ってみるといい」
配下 「そんな、私ごときが」
国王 「はは、怖気づいたか。村一番の狩人も腕が鈍ったかね?」
配下 「おや、国王様と言えど、そこまで言われては収まりませんな」
国王 「遠慮は無いぞ」
配下 「ではあの鷹を仕留めてご覧に入れましょう」
国王 「ほう、しかし二居おるぞ。どちらを討つつもりだ」
配下 「双方にて」
国王 「なんと!」
配下 「そこだッ」
国王 「…………」
配下 「…………」
国王 「……外してしまったな」
配下 「鈍ったか……いや、情けない姿をお見せしました」
国王 「気にするな、長年弓を持っていなかった割には、様になっていたぞ」
配下 「お恥ずかしい限りで」
国王 「しかしこれこそ、二兎を追うもの一兎をも得ず、だな」
配下 「……はい?」
国王 「ん?」
配下 「ん? え?」
国王 「いや、だから、二兎を――」
配下 「……鷹ですが?」
国王 「もう……だから、例えだってば」
配下 「いやいやいやいや、例える意味が解らない、鷹だし! 兎ちゃうし!」
国王 「語呂ってもんがあるじゃない、二兎を追うものって言う、語感?」
配下 「や、“いっぺんには無理じゃね~?”で良くない? 兎関係なくない?」
国王 「もういいよ……ごめん……」
なんか、よく伝わらなかった。
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