皆様は、プラヴォ・ヤズディと言う人物をご存知だろうか?
または作曲家フェルディナント・ローをご存知だろうか?
ヨーロッパ中で連続殺人事件を起こしたハイルブロンの怪人をご存知だろうか?
特にフェルディナント・ローの作った曲は、誰でも知っているほどの有名曲のはずである。
しかしこの3名には重大な共通点がある。
3人は全員、架空の人物なのだ。
プラヴォ・ヤズディは、アイルランド国内で50件近い交通違反を起こした、ポーランド人の悪質違反者として知られている。しかし真実は、ポーランド語で運転免許証を意味する「PRAWO JAZDY」を、アイルランド人の警官が人名だと勘違いしただけであって、同じ案件が50回繰り返されたに過ぎなかった。
ハイルブロンの怪人は、ドイツを中心に15年ものあいだ暗躍した凶悪犯罪者である。
女性警官殺人を皮切りに、多くの殺人現場から同一のDNAが見つかったことから連続殺人として捜査が進められたのだが、実際は鑑識用綿棒の業者のDNAを犯人のものと誤認していただけであった。
フェルディナント・ローは、あの「ねこふんじゃった」を作曲した人物として知られている。
この曲はドイツで『Flohwalzer(ノミのワルツ)』の名で親しまれているが、現地では「Flowは作曲者名F.lowの誤認だった」と言う説がまことしやかに囁かれているそうだ。そんなことよりワルツで無いことの方が重大だと思うのだが、とにかくフェルディナント・ローは世界的に有名なたった一曲を作曲したのち、消息を断つのである。
こういう話にロマンを感じるのは、都市伝説的性質を備えているからだろう。
約30ヶ国で知られている楽曲の作曲者が解らないなんて、実際のところ不自然だ。そう思ったスキに、「実はねこふんじゃったの作曲者は解っているんです」と言われれば、うっかり信じてしまいそうになる。じゃあこの人は他にも作品を作ってはいないのかと調べたくもなってしまう。
プラヴォ・ヤズディも怪人も、ある程度噂になればキャラ付けがなされる。キャラを得てしまえば、架空の存在だった彼らは市民権を獲得し、堂々とこの世を闊歩することができるのだ。
以前mixiにも書いたが、脚を奪う凶暴性でおなじみカシマレイコさんと、ゲームの名前に使ってはいけないツナカユリコさんには、現実に存在した可能性を思わせる魅力がある。
だって、花子さんなんかと違って、姓名がやや珍しい。これが「ゲームの主人公に“タナカ”ってつけるなよ」だったらお前それ適当言ってるだろともなるが、そんなにお目にかからない苗字となると、妙にリアリティを伴う。
都市伝説は、絶妙なリアリティあってこそ、活き活きとする。
そして仮に、レイコさんもユリコさんも、或いはヤズディも怪人もローも存在したならば、「都市伝説化した人物」として、どうにも思慕を感じてしまう。現実では偉業を達成するでもなく細々と生きていたとしても、その名前を都市伝説として誰かが語ってくれたなら、それはおおいに実りある人生だと思うのだ。
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余談。
「夢で田中にふりむくな」と言う都市伝説がある。
これは、自殺したクラスメイトのタナカ君が夢に出てきた時、呼びかけに応じて振り返ってしまうとおぞましい貌形を見せつけられた上、道連れに殺されてしまうという学校怪談のたぐいだ。
先程「苗字がタナカじゃリアリティがない」と書いたが、この話の場合は、「夢の中という、自分の意思で行動の制御が利かない領域が舞台であること」に田中姓の普遍性が加味されており、有用な効果になっていると言える。
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