※ 眠りに落ちそうな頭で考えた創作譚も含まれているので、正確には夢だけの描写ではありません。
-----------------------
ふたりの男子生徒、ひとりの女子生徒。
以前より馴染みの彼らにとって、学校帰りのカードゲームは毎日の楽しみだった。
少年の家には、親族が好きで集めたという膨大なゲームコレクションがあり、離れのログハウスは3人の遊び場になっていたのである。
ある日少年が取り出したのは、『ロア・カード』と書かれた小さな箱だった。
中には15枚のカードが入っており、うち14枚には世にも不思議な小話(ロア)が書かれ、残りの1枚には何も文字が印字されていなかった。
ゲームのルールは簡単であり、奇妙だった。
中心に小皿のついた六角形のボードを3人で囲む。小皿には血を注ぎ、その上に脚付きの燭台を設置する。部屋はできるだけ暗くし、燭台の上にキャンドルを立て、火を灯す。
3人のプレイヤーにはカードが5枚配られ、2回ずつ、自分の手元にあるロアを、それなりに創意を持って読み上げる。ただし、白紙のカードを持っているプレイヤーは必ずそれを選択し、書かれていない話の代わりに「創作ロア」を語らなければならない。
最後に、「創作ロアを読み上げたのは誰なのか」を各人予想し、指名しあう。“オープン”の掛け声で5枚のカードを全て場に晒し、白紙のカードを持ったプレイヤーが残る2人に指名されていなければ“逃げきり”。ゲームが続行される。
本物の血を使うわけにはいかなかったから、3人は絵の具を溶かした水で代用した。しかしそれでも、キャンドルだけが照らす室内は十分に雰囲気があり、カードに書かれたロアを、それぞれ演技を交えつつ語り合った。
ある田舎町を集中豪雨が襲った。土葬の慣習があったため、雨が止んだあと、墓地では幾つもの遺体が地面からはみだしていた。
しかし住人がよく観察するとその殆どは死装束を着ておらず、また共通して、動物に齧られた痕跡が確認された。
興味を持って辺りを捜索すると、よほど焦って書いたのか、殴り書きで、ところどころ文字が被っている、一通のメモ書きが発見された。
“地下墓地に泥棒に入ったのが間違いだった。土壁をかきわけ、細く狭苦しいほらあなをうつ伏せで進んでいると、何かにぶつかった。靴だった。よく見るとそれを履いている脚も、その先の体も確認できた。しかしそいつが死んでいるのは明らかだった。そこかしこに、何かに齧られた跡がある。前にも行けず、仕方なく引き返そうとした俺は絶望した。でこぼことした壁に体が引っかかり、どうしても後ろに進むことができなかったのだ。凹凸は全てが奥に向いており、どうやっても後退できないつくりになっていた。息苦しい。足元で何か音がする。ねずみの鳴き声だ。靴先に歯が当たる感触があった。俺はいま、絶望しながらこれを書いている。”
住人は戦慄したが、その後、訝しく感じられることに気がついた。
墓地には、ねずみの死骸は無かったのである。「オープン」
合図と共に、場にカードが晒される。少年は負けを予感していた。少々状況描写に熱が入りすぎた。2人とも、創作者は自分だと見破っているだろう。
しかし、場に出された15枚に、白紙のカードは無かった。
少年はまさかと自分の手札を見直すが――そのうちの1枚には、
《大雨に襲われた田舎町の墓地で、おびただしい齧り跡のある墓泥棒の死体が幾つも見つかった。共に落ちていたメモには、棺への細い抜け穴の中で、生きてねずみに喰われた男の遺言が書かれていた。
しかし不思議なのは、墓地にはただの一匹もねずみの死骸が見つからなかったことである。》今しがた出任せで創ったばかりのロアが、しっかりと印字されていた。
PR