『ゴーストトリック』、類まれなる名作だった。
DSのタッチペンは、やはり目的ではなく手段だった。
例えば近年稀に見るクソキャラゲーである『金田一少年の事件簿 悪魔の殺人航海』は、タッチペンミニゲームを入れるために、全く必然性の無い爆弾解体が導入されていた。結果、「あれ? 何で今俺はこれをやらされているんだろう」とプレイヤーに思わせてしまった。
しかし今作の場合は、良いシナリオと、良いコンセプトがあって、それをプレイヤーが楽しむためにタッチペンが必要になったゲームだった。
ゲームの目的を簡単に言うと、お化けである主人公・シセルを操作し、事件現場にある様々な道具に取り憑いて、「死亡事件」そのものの存在を消してしまうこと。
一晩の間、正義感と境遇と不運ゆえ、死亡の事実が無くなる度にまた別のパターンで死に続ける女刑事・リンネは、シセルの死に関わる重要人物。彼女のためにプレイヤーは、シセルが持つ「死者の“最後の4分間”を再生する能力」を使い、殺し屋の銃を遮断機で跳ね上げるのに始まり、最後の最後、ストーリーが物凄いシリアスになって、伏線も綺麗に回収されていく中で取り憑いた焼き芋の扱い方に頭を悩ませる必要がある。
そのコンセプトがまず面白い。
死までの4分間の間に、どうにか道具に取り憑いて、運命を変える必要がある。
素晴らしいのは、それ自体が
ゲームとしてとりわけ難しくはないことだ。それよりも、「これに取り憑くとこう動くの!?」だとか、「これにそんな使い方があるの!?」だとかと言った、
ゲームが用意した発想に驚かされ続けることになるのが、凄いのだ。
「死亡事件を抹消する」と言う目的と、様々な日用品が散らばるステージとの間に、「ではもしアレがこうなったら、プレイヤーのあなたはどう感じるかな?」と言うものがひたすらに提示され続ける。
ごくごく自然な
アハ体験発生ゲームとも言える。
プレイ中、何回DSの画面を前に「おおー」と言ったか、俺!
そしてそのアハ体験が、結構凝ったストーリーの上に乗っかってくるのだから、たまらない。
「単なる捨てキャラだろお前!」と思ったキャラクターにもきちんと愛すべき性格付けがされているし、突然キャラ同士の関連が芽生えたりする。いまいち良い所ばかりではないキャラも、なぜその行動を取ったかについての動機づけが提示される。
「年月が経つ内に死者のチカラも変容する」のような、ちょっとそれは安易かなあと思えなくも無い都合のいい設定も無いではないが(何せ最大級の謎の真実が、不運な偶然の積み重ねでできているし)、それなりに「そういう事なら仕方がない」と思わせるだけの雰囲気は作られているように思える。
演出の上では、早送りできない「セリフのフェイドアウト」や、ゲームオーバー後、繰り返しの挑戦でも飛ばせない会話イベントが気になりはしたが、何と言えばよいのか、それを「脚本の面白さ」が上回った。
これだからゲーマーは辞められないと素直に感じられるくらいの、素晴らしいゲームだった。
セリフ回しにも時折グッとくる場面があるし、非常に優れた脚本はそう簡単に飽きを感じさせない。2010年のベストゲーに間違いなくノミネートすると確信している。
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