修学旅行に参加した。参加したも何も、私はそのとき学生だった。
初日、歩いて40分ほどの公園で英語の授業があった。敷地の隅に教室くらいの大きさのログハウスがあったから、その中で座学と、テストを受けた。とうぜん、つまらない。どういうわけか教師が倒れて担架で運ばれていったものだから、適当にお開きになってしまった。
ログハウスの外は曇り空で、今にも雨が振りそうだったが、冷たい風が気分転換にちょうど良かった。クラスメイトと伸びをしていると、どこからともなくバスが現出した。
「そう言えば修学旅行だった」
と思ったので、みんなで乗り込むことにした。
間もなく雨が降りだした。
目的地らしい商店街に到着するが、ふと思うと財布もカメラも置きっぱなしにしてしまった。急に心細くなり、そうなると様々な景色が面白く感じるもので、物陰に陳列された、かびくさいこけしなどが妙に愛しくなる。
戻ろうにも――バスはもう消えてしまったし、そもそも、どこの公園から来たのか、いまはどこの商店街にいるのか、解らないのだ。
なぜか切符がポケットに入っている。
いや、ポケットに入っているだろうという確信だけがあった。
でも、わざわざ探ろうとは思わなかった。役に立たないと思ったのではなく、知っても現状は変わらないと思った。
雨が強くなってきた。
がががが、と、商店街の瓦屋根をいちいち力強く、雨粒が叩いた。
いよいよ、せめて都道府県だけでも知りたい気持ちが芽生える、
雨どいを流れる水を見つめ続けることに嫌気がさしたか、班員が仲間割れをしだした。あからさまに「いま離れているあいつら、引き離してしまおう」などと言い出すようになった。しかし、誰までが班員なのか、さっぱり解らなかった。
壁も無い、屋根があるだけの簡素に過ぎる民芸店の近くで、見覚えのある革手袋が落ちていた。
これはどうも、自身の持ち物だったように思う。「いつか」、落としてしまったのだろう。でも、仲違いしたまま離れてしまう班員のほうが気がかりで、拾おうとは思わないのだった。
そのうち、あまりにも激しい雨が続くから、ひとつの店で雨宿りをする。
瓦屋根のある木造建築は、風情があり、かび臭さもあり、陰鬱で、それがやけに心地良かった。
古いアーケードゲームがあると言うので遊ばせてもらったが、それが居場所と似たような日本家屋の中でゴキブリやナメクジから逃げ惑うというとても嫌悪感溢れる内容だったから、閉口した。
――しかし、いつ帰れるのだろうか?
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