携帯電話の充電が切れてしまった。
周囲を見回すが、充電ケーブルは見つからない。
そこらじゅうに湿気臭い本が堆高く積まれており、上には巨大蜂の剥製がちょこんと置かれている。そんな環境なのに、作業机に置かれているハンバーガーには腐っている様子がない。窓の外は、ずっと雨が降っているようだった。
ミトウトウコと言う人物の漫画を読めば充電ケーブルが見つかるらしいのだが、掲載誌も、単行本が出ているかも解らなかった。
外は窓から見えた景色とは違い、星空の見える夜だった。札幌では祭が催されているらしく、辺りで太鼓の低い音が鳴っていた。
手掛かりを探すが、本屋もコンビニも見つからない。とうとう狸小路を抜け、大通公園へと辿り着くが、巨大な噴水の周りに幾つもの壊れた太鼓が転がっているだけだった。
仕方なく来た道を引き返す。雨の降る部屋に帰ると、やはりハンバーガーは腐っていなかった。そして、作業机の上には4コマ誌が置かれていた。
ミトウトウコの漫画は、普遍的なオフィス4コマだった。
しかし絵が可愛らしく、興味を持って読んでいると、どうも波長が合ったらしい。漫画の中に取り込まれていた。
ねぼけてパジャマのまま出社してしまった女子社員が、同僚にからかわれつつも「もう一度寝るからアラームセットしておくね」などと言う。「大丈夫、充電はしておいたから」
そこで目が覚めた。携帯電話がアラームを鳴らしていた。
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