WEB上で出会った人とのオフ会などしてみると、とっかかりの趣味は同じでも様々な職の人たちがいるもので、ふと「じゃあ自分が持っている漫画には、どれほどの職業の人がいるんだろう?」と思い立ち、ざざっと解りのいいところを列挙した。
というのが今日のネタである。
勿論現実的な職業に限っており、例えば、
・怪盗
・殺し屋
・宇宙パトロール
・蟲師
・夢幻紳士
・武士
などは除いている。
1、おもちゃ開発部(光の大社員/OYSTER)
このくらいハイテンションでやって良いのなら、非常に楽しい職業ではないか。
しかし、作中の白衣の人は主任職で企画立案、プレゼンテーション、設計、スタジオでの音声録音、製品モニタリング全部やっているので、ここの部長さんはもっと大変なんだろうなあ。
おもちゃ会社が舞台のため、他にも「冷蔵庫に食品を効率的に詰めるパズル」や「両手に好きなものを持たせて怖さを競うピエロ人形」のように、実際に発売されていそうなネタがあり、漫画自体面白い。
2、営業マン(かりあげクン/植田まさし)
改めて読むと、かりあげクンは上司の家族にも懐かれているし、アウトドア趣味を数多く持っているし、同僚の女性が時折自宅に遊びに来るし、実はかなり人間としてデキている。
それはそれとして営業というのは、かなり私には向いていない職業だと思う。つきあい酒は飲めるし、初対面の人間と会話を弾ませビジネスの話をするのも全く苦ではないのだけれど、「特定顧客」という存在に抵抗があるのだろう。
3、考古学者(妖怪ハンターシリーズ/諸星大二郎)
職業が妖怪ハンターとしか思えないし、体験していることが非現実的なのだが、この人の本職は考古学者であり大学の客員教授。
考古学という分野自体どこから手を付けたら職にできるものか解らないし、仮になれたとしてもこの人のように安徳天皇や河童に襲われると思うと、割に合わない職である。
漫画自体は妖怪よりも、民俗学的なものや土俗、慣習の「ルール的面白さ」に魅力を感じる人にオススメ。
4、水族館職員(アクアリウム/須藤真澄)
大きな弱点として泳げないというのがあるので、もう、もはや、無理な職である。
あと生きている魚は飼ってるベタしか触れないし。
この漫画は「魚と会話できる少女」を主人公に、その幼年期から成人し結婚するまでを描いたもので、メインになるのは魚と話せるかよりも「自分と違う生き物と触れながら、考え方を変えながら生きる」ことの尊さ、成長物語性だ。
個人的には、そうやって迷いつつ出会いつつ年を重ねていく主人公の面白さを、最初と最後にだけ登場する居酒屋の親父のセリフによってまとめあげている演出手法に惚れ込むものである。
5、カフェ店員(ヨコハマ買い出し紀行/芦奈野ひとし)
ある朝目が覚めてアルファさんになってたら、やりたいですね。
つまりこの作中に於けるカフェ店員さんは、なんだかいつもヒマしてて、お客が来たら自分もコーヒーを淹れて語り込んじゃって、ネコのように気まぐれに黙りこんじゃう生き物で、それは、アルファさんになれないとできない。
6、アパート管理人(ふら・ふろ/カネコマサル)
実は何年も前にハローワークで見かけて話を聞いてみたことがあるのだが、「ご高齢の方が空いた時間にやるものですので、お若い方対象のお仕事では……」と、逆年齢制限な断られ方をした。本当に、この漫画の主人公はどうやってこの職にありつけたのかが解らない。少なくとも作中での振る舞いはのどかで楽しそうだけれど、絶対この人達別の仕事したほういいと思う。
単行本三巻で惜しまれつつも連載終了したが、ただ「可愛い女の子たちが四季を感じながら貧乏に生活する」というだけの話で、変なゴリ押しもテコ入れも何もない。フラットでフロウな、平坦で淀みない漫画。ヌルめにオススメ。
7、輸入雑貨商(孤独のグルメ/谷口ジロー・久住昌之)
みんな大好き孤独のグルメ。
読んだことがなくてもWEB上で画像は見たという人も多いが、主人公は輸入雑貨商である。輸入経路によってその仕事の大変さは変わるのではないか。
例えば個人的に行くエスニック雑貨店の店主さんはたびたび現地に行って実際に生活しながらそこの日用雑貨を仕入れてきている(中には使い道不明のまま仕入れているところがたまらない)し、別の仕入れ業者にコネがあるというパターンもあるだろう。
決してこの主人公も、いつも腹を減らしているだけの人ではないのである。
8、イラストレーター (中央モノローグ線/小坂俊史)
決して全てのイラストレーターを正しく描いた漫画ではないのだけれど、でもこの漫画に描かれる孤独の質はたぶん似通っているだろう。どんどんと、自営イラストレーターが思う「人並み」から乖離していく、その居心地の良さと寂しさが「モノローグ」という形式で皮膚感覚的に描かれていて、大変琴線に触れる漫画。
「モノローグ」力、という言葉があるなら、かなり指折りの表現でオススメ。
9、劇団員 同じ作品からもう一種。実際の所、この「内省」の描写力は、作者自身孤独な人なのではないかと勘ぐらせるに十分。
そのくらい、この漫画のモノローグはスゴい。
ところで、実は劇団員の面接も受けたことがある。結局魚の世話ができないほど家を空けなくてはならないことと、面接担当のおばちゃんに「あなたはじゅうぶんに世界観を持っている。この劇団は退屈になるはずです」という、どうとも取れるスゲエ一言で辞退した。
10、古書店店員(金魚屋古書店/芳崎せいむ)
新古書店の営業形態も便利だが、古書店という存在は非常にロマンがある。しかもこの金魚屋はマンガ専門。そりゃ、ありとあらゆる漫画を記憶していたら、古書店店員になりたいが。
作中では登場人物が新刊書店でバイトをするエピソードもあり、ヒューマンドラマとしての完成度の高さもあって「漫画が好きって楽しいなあ」という思いにさせてくれる。
11、引越し屋(うごかし屋/芳崎せいむ)
話として「顧客の想いに突っ込み過ぎて、心まで動かす引越し屋」というのは面白いが、それはそれとして、先日ちょっとした手伝いで八時間ほど力仕事をしたところ、そのあと丸24時間まともに体が動かなかったので、もうそういう運搬とかはできない体になっておりました。
12、小説家(作家 蛙石鏡子の創作ノート/西川魯介)
ある朝目覚めたら巨乳眼鏡黒髪ロングでゴシック系ファッションの女流作家になっていたら考えたいと思います。
巨乳眼鏡黒髪ロングでゴシック系ファッションのアルファさんになってたら、やっぱりカフェ店員かもしれないけど。
作者の他の作品と同じく、かなり下世話というか下衆なお色気ギャグ漫画。もう、巨乳メガネっ娘だったら妄想の範囲で手酷い仕打ちをしても問題ないでしょうというだけの漫画で、解る人にはオススメ。
13、漫画家(燃えよペン/島本和彦)
漫画家はあこがれの職業のひとつだけど、ここまでテンション高くないとできないかもしかして。
ある朝目覚めたら巨乳眼鏡黒髪ロングでゴシック系ファッションでヘッドギアをつけた効果線の似合うアルファさんになってたら、ええっと、カフェ店員になりたいと思います。
作品自体は時代相応(1991年発行)の暑苦しさと古さ。でも、なんだかやる気の出る漫画だ。
14、落語家(じょしらく/ヤス・久米田康治)
人から「アンタ絶対向いてるからやりなさい」と言われたことのある職業のひとつ。いや、シンドイだろう。たぶんかすっているエピソードとしても、寿限無を未就学児のうちに必死で覚えたくらいなもの。なにが駆り立てましたか。
アニメ化もしており、かってに改蔵や絶望先生の雰囲気で楽しめる人なら問題なく笑える漫画。
15、小学校教師(なつのロケット/あさりよしとお)
中学生くらいまで、理系だったんですよ。
化学式と、あと光の屈折と反射で、挫折した派。いまでも科学的な人の発想や、実験などは好みで、羨ましいと思う職業のひとつ。
しかし、先述の引越し屋と同じことを言うけれど、小学生の体力に一日付き合うのは恐らく、もう体が向いていないだろう。
あさりよしとおはロリコンブーム草分け時代の漫画家で、太い線で描かれる柔らかそうな女の子キャラと講師レベルの科学知識が特徴。なつのロケットは「辞職する担任のために手作りの人工衛星を打ち上げる」という内容で、やや珍しい毛色のジュブナイル譚(少年たちの成長物語という意味で)。
16、物の怪(遠野モノがたり/小坂俊史)
それにしても様々な職業があるが、過去読んだ漫画で一番インパクトのあったのが、このエピソード。
「今の私は大人でも子供でもなく、本当にまるで遠野物語の物の怪のよう」
実際に半・物の怪として、定職もやるが胡乱な職もやるということをしているが、この物の怪業がなかなかやめられないものである。
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