旅行先でS氏の家に数人で泊まらせてもらった。
昼頃に目覚めて玄関扉を開けると、外は晴天ながら雨が降っており、遠くのほうでは霧が出ているようだった。
家の前に、見慣れたワゴン車が停まった。中から古い友人のKやSが降りてくる。なんでも、近くに発電研究所があり、そこの見学をしていたそうだ。
それだけで羨ましかったが、どうやら話を聞くと、今まで一般常識として信じられてきた地下マグマの流動のエネルギーによる発電は嘘で、実は赤い竜が研究所付近で直接発していたエネルギーが電気の正体であったらしく、一同でずいぶんと興奮気味に議論し合う。
とりわけ今日みたいに薄くけぶる雨の日だと、山の方にうっすら見えるそうなのだが、目を凝らしても皆には黒い竜にしか見えなかった。
見学の参加品として彼らは“INK”と書かれたバッヂを胸につけていたので、それも羨ましがっていたところに、Sが「実はもうひとつ記念品があって」と袋を取り出した。竜発電が公になることには大きな意義があり、それを記念して渡されたという。
袋から取り出されたのは15世紀の魔法使いのマントだった。
その夜もSの家に厄介になったのだが、ひとり、巨大な竜になって家から出ていってしまった。
PR